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高橋 浩一(山王病院脳神経外科)
★プロフィール
★山王病院ホームページ
★【臨床像】小児期 (15歳以下) に発症した脳脊髄液減少症は、
男児の方が女児より約2倍多く発症しています。
成人例では女性に多く、異なる点です。主な症状は頭痛、めまい、易疲労です。
他に、記憶障害に伴う成績低下、強固な首や肩の凝り、
不眠や凶暴化などの精神障害を示した症例も存在しました。
症状が強固であるため、不登校になる児も存在しました。
しかし、本症は認知度が低く、学校や周囲の方々から理解されにくい事があります。
それどころか、小児科や脳神経外科など複数科を受診しても、
原因不明とされる事が多く存在します。起立により症状が悪化する事があるため、
「起立性調節障害」などの診断で経過観察されている症例も存在しました。
★【原因】受傷から3か月以内に発症し、外傷が原因と考えられるもの(外傷群)が
約4割、以前に外傷の既往があり、これが脳脊髄液減少症発症原因と疑われるのも
(外傷疑い群)が約5割、外傷が明らかでない症例(不明群)は約1割でした。
外傷群では、交通事故が約半数で、残りは転倒や衝突などによる受傷でした。
外傷疑い群では、交通事故が原因と疑われる症例は少なく、
以前に尻餅や転落などの比較的軽微な受傷がほとんどでした。
また、野球やサッカーなどのスポーツでの受傷が疑われる例や、
学校内での怪我もあります。
★【診断】経過・症状により本症を疑い、成人例に準じて、他の疾患を除外した後、
頭部MRIで補助診断し、RI脳槽シンチで確定診断しています。
頭部MRIは、高位円蓋部くも膜下腔の拡大
(図1 矢印) を示す症例が約40%、
小脳扁桃下垂(図2 矢印)は稀でした。半数近くの症例は、正常所見でした。
RI脳槽シンチでは、髄液漏出像を呈した症例(図 3)は約30%で、
残りは膀胱内早期集積やRI残存率低下(図 4)にて診断しました。
★【治療】本症の治療はまず、水分補給や安静などの保存的加療を行い、
これらの治療効果が乏しい場合、ブラッドパッチを考慮すべきと思います。
★【成績】ブラッドパッチにより、著明に改善した症例(学校や社会に完全復帰)は
約60%、部分改善例(学校や社会には完全には復帰できていないが、
以前より症状が軽快している)が、約30%で、有効率が90%近くあります。
ただし不変例が約10%存在し、今後の大きな課題です。
また、発症から治療までの期間が10年以上経過した症例では有効率は
半分程度にとどまっており、早期の診断が重要と考えています。
★【症例】13歳、男児。交通事故にて受傷。その1ヶ月後より、めまい、倦怠感、
頭痛、不眠、嘔気などが出現、症状が強固であったため、学業に支障をきたし、
週に数回、登校不能となった。発症から約3ヵ月後に当院を受診した。
頭部MRIでは特に異常を認めなかった(図 5)。
RI脳槽シンチでは、髄液漏出が明らかでないが、RI残存率の低下 (19.6%, 24時間後)
を認め脳脊髄液減少症と診断した(図 6)。2回のブラッドパッチにて、症状は軽快し、
現在、学校へも元気に通い、好きなサッカーもしている。
本症例は、兄が脳脊髄液減少症であったため、本症についての知識があった事が、
早期受診、早期治療につながったと思われます。このような家族発生、
兄弟発生例は少なからず遭遇します。
★【治療後の注意点】ブラッドパッチ治療後は、成人例にならい、
約2週間の安静は必要です。その後は、オーバーワークに注意しながら、
少しずつ体力を回復させるべきでしょう。また、生活の基本「食事」、
「睡眠」、「適度な運動」を心掛ける事は重要です。
成人例に比較し、小児例では比較的短時間に改善する症例が、多く存在します。
しかし、症状改善に至るまでには、個人差が存在します。
それから脳脊髄液減少症治療を通じて痛感しているのは、メンタルが
占める部分が多い事です。小児は成人に比し、ストレスが少ないと言われますが、
それでも学校での不安など、精神的に不安定な状況が存在すると、治療効果に
影響を与えると思います。家族や学校などの理解が非常に重要と思います。
★【小児患者の家族として】小児の患者の場合は、小児期という特殊性が存在します。
家族としては、病状に理解を示す事が重要と思います。一方、過保護になりすぎると、
「悲劇のヒロイン症候群」つまり自分が一番不幸であると考え、
他人の目を惹こうとするなど、自ら悲劇のヒロインになりきる症状をうみかねません。
このバランスは、とても難しく、個々の場面により、判断すべきとしか言えません。
一番好ましくないのは、親が非常に弱気になる事です。内心では不安を
感じることは当然ですが、少なくとも、患児の前では毅然とした態度で
「私達は、あなたの味方である。」と安心を与える姿勢が重要と思います。
★【最後に】本症は未だ認識が低く、精神疾患や怠け癖などと判断され、
対応が遅れる事が多く存在します。しかし、特発的または外傷をきっかけに、
頭痛、めまい、易疲労、肩や首のこりなどが出現し、慢性的、もしくは進行性に
経過する児童に接した場合、本症を念頭に入れるべきと思います。
★【自己紹介】高橋 浩一
昭和59年 東京都立富士高等学校卒業し、同年4月、東京慈恵会医科大学に入学。
平成2年、東京慈恵会医科大学を卒業し、母校脳神経外科に入局しました。
母校、東京慈恵会医科大学在籍時は、臨床の傍ら中枢神経系の発生学・奇形学、
そして脳脊髄液循環の生理学・病理学が私の研究テーマで、
平成11年には川淵賞(小児脳神経外科学会年間最優秀論文)を受賞しました。
また、平成12年から約1年半、ロサンゼルス小児病院 / 南カリフォルニア大学での
留学中は、髄液循環の研究に従事し、これが髄液循環障害に悩む方々の
治療を専門とした大きなきっかけでした。
帰国後は、母校の小児脳神経外科部門で診療医長を務めた時期もありました。
平成18年4月より、山王病院にて美馬達夫部長の指導下、脳脊髄液減少症の
診断・治療に携わらせて頂いています。
これまでの臨床・研究経験に加え、東京慈恵会医科大学の建学の精神である、
「病気を診ずして病人を診よ。」の理念に基づき、微力ながら
脳脊髄液減少症診療を行い、平成20年6月現在、山王病院にて、
15歳以下に発症した脳脊髄液減少症患者は30数例存在します。
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